はじめに:僕の知らない「未来」が、そこにあった
1998年。僕がまだ雪国の片田舎で、分厚い百科事典のページをめくっていた頃。東京では、そして世界の最先端では、すでに「未来」の扉が開かれていたようです。
当時、僕はその存在すら知りませんでした。インターネットといえば、夜11時を待ってピーガラガラと音を立てて繋ぐダイヤルアップ回線。知識は本屋か図書館で得るのが当たり前だった時代です。
そんな時代に、百科事典14巻分が、たった2枚のCD-ROMに収まるという衝撃。それが今回発掘した雑誌記事で紹介されていた「マイクロソフト エンカルタ 98」でした。当時これを体験できなかった僕が、今、202x年の視点からこの“失われた未来”を追体験してみたいと思います。

紙の重さからの解放。「クリックでジャンプ」する知的体験
まず驚かされるのが、その情報量です。標準的な百科事典14巻分、総文字数2,200万字。子供部屋の本棚を圧迫していたあの重たい全集が、PCのCD-ROMドライブに吸い込まれていく…。想像しただけで、SF映画のワンシーンです。
そして、僕らの知的好奇心を永遠に変えてしまった「アレ」が、すでにこの時代に実装されていました。
青色の文字をクリックしていくだけで、関連する情報に次々とジャンプしていくことができます。
そう、ハイパーリンクです。今でこそWikipediaで当たり前のように関連ワードを渡り歩いていますが、この「知的散歩」とも言える体験が、1998年の時点で完成されていたことに鳥肌が立ちます。キーワードをうろ覚えでも検索できる自然言語処理。これぞまさに、僕らが来る日も来る日も使うことになる「検索」の原体験だったのでしょう。
音と映像が飛び出す! これが「マルチメディア」の魔法だった
「エンカルタ」の真骨頂は、文字情報だけにとどまらない「体験」にありました。
- 歴史的な演説を、本人の肉声で聴く。
- クラシック音楽のハイライトを鑑賞する。
- 野生動物が動く姿を、ビデオで見る。
YouTubeもストリーミングサービスもない時代です。CD-ROMの中から音声や動画が再生されるだけで、どれほどの感動があったことか。記事の熱のこもった紹介文を読むだけで、当時の編集者の興奮が伝わってきます。
さらに、ベルサイユ宮殿やタイムズスクエアを360度見渡せる「パノラマビュー」機能。これなんて、完全にGoogleストリートビューの元祖じゃないですか…。僕が地図を広げて想像を巡らせていた頃、すでに世界中の景色をPCの中から旅する手段があったのです。

インターネットに繋がり「成長する」百科事典という革命
そして、最も未来を感じさせるのが、インターネットとの連携です。
従来の百科事典は、買った瞬間から情報が古びていく宿命にありました。しかし「エンカルタ98」は違った。「イヤーブック機能」によって、毎月インターネット経由で情報が更新されるというのです。
これは革命的です。手元の知識が、世界の動きとリアルタイムで繋がる。雑誌の切り抜きをノートに貼っていた僕からすれば、魔法以外の何物でもありません。3,400以上の関連サイトへ直接ジャンプできる「Webリンク機能」も搭載。CD-ROMという閉じた世界から、無限のインターネットの海へ飛び出していく。この設計思想は、間違いなく現代のWebサービスの礎になっています。
まとめ:エンカルタが見せた夢と、僕らが生きる今
今回、雑誌のページをめくりながら「エンカルタ98」を追体験して、僕は確信しました。これは単なるソフトウェアではない。90年代後半の人々が夢見た「未来の知識の形」そのものだったのだと。
クリック一つで世界中の知識を渡り歩き、映像や音で物事を体感し、常に最新の情報にアップデートされていく…。エンカルタが描いたビジョンは、今、WikipediaやGoogle、YouTubeといった形で僕らの日常に溶け込んでいます。
でも、だからこそ思うのです。情報がパッケージングされ、CD-ROMという「モノ」として存在したからこそのワクワク感、宝箱を開けるような特別な感覚が、そこにはあったのではないか、と。当時触れることのできなかった憧れの未来に、今、少しだけ触れられた気がしました。
あの頃の熱狂をもう一度、手元に。
今ではすっかり見かけなくなったCD-ROM百科事典。
あの頃、手の届かなかった未来の扉を、今こそ開けてみませんか?
ドライブにディスクを入れる、あの独特の起動音と共に、90年代の夢の続きを体験してみてください。
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