ネット以前の総選挙!ハガキ一枚に懸けた俺たちの青春
スマホもSNSもなかった90年代。俺たちの情報源であり、世界のすべてだったのは、毎月楽しみにしていた雑誌だった。特に、ちょっと背伸びしたい中高生が夢中になった雑誌には、今じゃ考えられないような熱量と狂気に満ちた企画がゴロゴロしていたのを覚えているだろうか。
当時、田舎で雑誌を読んでいた俺は、都会のキラキラした情報に胸を躍らせていた。そして、時々掲載される全国規模の読者投稿企画のページで、必死に自分の地元や知っている地名を探したものだ。そんな中でも、ひときわ異彩を放っていたのが、集英社の雑誌『ダンク』に掲載されていたこの企画だ。

その名も「全日本ダンク選抜 学校名無差別人気投票」
ルールは至ってシンプル。「自分の学校名(または好きな学校名)をハガキに書いて送る」。ただそれだけ。しかし、この一見シュールな企画が、全国の中高生を巻き込む一大ムーブメントになっていたんだ。

「組織票大歓迎」公式が煽るカオスな熱狂
この企画が他の人気投票と一線を画していたのは、編集部のスタンスだ。誌面には堂々とこう書かれていた。
「組織票も大歓迎です」
普通なら無効にされそうな「組織票」を、公式が煽りに煽っていた。クラスで、部活で、友達同士で、官製ハガキや年賀状の余りをかき集めて投票する。その熱量は、現代のSNSでの「推し活」の原点と言えるかもしれない。

わずか2票差!一枚のハガキが分けた天国と地獄
当時の誌面を見てみよう。ある月のランキングは、信じられないほどのデッドヒートを繰り広げていた。
■上位ランキング(抜粋)
1位 浪速高等学校(大阪・大阪市)202票
2位 安来市立第二中学校(島根・安来市)200票
3位 市立内谷中学校(埼玉・浦和市)180票
(…)
1位と2位の差は、わずか2票。たった2枚のハガキが、全国の頂点を決めてしまったんだ。想像してみてほしい。もし、安来二中の誰かが「あと2枚だけ書いておこう」と思っていたら、歴史は変わっていたかもしれない。このアナログならではの生々しい結果に、当時の俺たちは本気で一喜一憂していた。
しかも、よく見るとランキングには小学校から高校までが入り乱れている。まさに「学校名無差別」の異種格闘技戦。自分の母校が、全然違う地域の有名進学校に勝っているのを見つけた時の高揚感は、今でも忘れられない。

「あと1枚あれば…」編集部の熱すぎる檄文に震える
この企画のもう一つの魅力は、読者に寄り添う(というか、一緒に熱くなっている)編集部の存在だ。ランキング発表の横には、こんなアツい解説文が添えられていた。
■編集部からの熱い《解説》
1位と2位、そして10位と11位の票差に注目してほしい。たった1枚か2枚のハガキが勝敗、あるいはベスト10入りを決めてしまうのだ。100票にも及ぶ大量投票をしながら、僅差で負けるのはつらい。特に今月は11位の哲南中と取手東中が、あと1枚のハガキを用意していれば、ベスト10入りを飾れたのにと思うと残念でならない。両校の諸君よ、機会があれば、再度の挑戦をしてほしい。
どうだろうか、この熱量。まるで戦況を伝える従軍記者のようだ。「両校の諸君よ、再度の挑戦をしてほしい」なんて、今のメディアでは絶対に見られない言葉だ。読者と編集部が一体となって、この巨大な「遊び」を作り上げていた。賞金(1位投票者に1万円!)も、その熱狂に拍車をかけたのは言うまでもない。

まとめ:ハガキに込めた、あの頃の「本気」
「全日本ダンク選抜 学校名無差別人気投票」。それは、ハガキというアナログなツールの上で繰り広げられた、日本中の学生たちの代理戦争だったのかもしれない。
クリック一つで投票が完結する現代から見れば、非効率で馬鹿げた企画に見えるだろう。でも、ハガキを買い、一枚一枚に学校名を書き、ポストに投函する。その手間暇こそが、自分たちの「本気」の証だった。自分の学校の名前が、自分の知らない誰かの投票でランキングを上がっていく。その見えない繋がりと連帯感が、俺たちをたまらなく興奮させたんだ。
もし君の母校がこのランキングに載っていたら、それは間違いなく、君と同じ時代を生きた誰かがハガキに想いを込めてくれた証だ。
あの頃の熱狂をもう一度、手元に。
一枚のハガキに込めた想い、雑誌のインクの匂い、友達と語り合った放課後。そんな記憶の扉を開ける、あの頃のカルチャーをもう一度手に取ってみませんか?
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