SNSがなかった時代、僕らの情熱は50円切手に託されていた
今や、ゲームの感想はX(旧Twitter)にポストすれば瞬時に世界と繋がれる。クリア報告、バグの発見、推しキャラへの愛。指先ひとつで共感を呼び、議論が生まれる。便利で、最高な時代だ。でも、僕らの世代が青春を過ごした90年代は、まったく違った。
僕らの情熱は、50円切手を貼った一枚のハガキに込められていた。その熱量の中心地こそが、ゲーム雑誌の「読者投稿コーナー」だった。今回は、中でも特に異様な熱気を放っていた『電撃PlayStation』の伝説的ページ、「PSの奴隷(通称:DPSど)」の記憶を掘り起こしたい。

「夏期講習代でゲーム買っちゃって」―不良ゲーマーを肯定する楽園
「DPSど」の扉を開くと、まず目に飛び込んでくるのは編集部の異常なテンションの煽り文句だ。そこには、現代のコンプライアンスでは考えられないような、ゲーマーへの愛あるメッセージが満ち溢れていた。
- 「PSの奴隷は夏期講習行くからってもらった大切なお金でゲーム買っちゃって、予備校行かずに図書館で勉強してました。なんてPS及びゲーム全般に禁断の花園よマイエンジェルな貴方にお送りするPS、ゲーム中心の何でもありな読者様ページです」
- 「ほらいわんこっちゃない・・・・・夏休みの課題はちゃんと毎日少しずつやっちゃいなさいって毎日言ってたでしょう? お母さんは。こんなにたくさん、ゲーム買いこんじゃって……………もう。どうするのよ。」
親や先生には言えない、ちょっとした罪悪感。それを「わかるぜ!」と全肯定してくれるこの場所は、僕らにとってまさに聖域だった。正直に言うと、僕は不器用で絵も字も得意じゃなかったから、ハガキを投稿する「職人」側の人間ではなかった。でも、毎号このページに掲載される猛者たちの熱い魂の叫びを読むのが、何よりの楽しみだったんだ。
ハガキ職人を燃えさせた「ポイント制」という名の沼
なぜ彼らは、時間と労力をかけてまでハガキを送り続けたのか。その原動力の一つが「ポイント制」だ。採用されるとポイントが貯まり、オリジナルグッズと交換できる。このシステムが、異常なほどの熱狂を生み出していた。
- 投稿はハガキサイズ厳守!:情熱が溢れすぎてB4サイズの大作イラストを送り、問答無用で不採用(ポツ)を食らう職人の悲劇。
- 基準は「熱く、思いがこもっている」こと:うまい下手だけじゃない。編集部が魂で投稿を選んでいたことが伝わってくる。
- 10ポイント獲得の「奴隷の『と』大賞」:210文字以上225文字以内という厳密な文字数制限の中、いかに熱いコラムをブチ込むか。職人たちは、原稿用紙でもないハガキの裏で、必死に文字数をカウントしていたに違いない。
今の「いいね」や「リツイート」とは違う。物理的なインクの染み、手書きの文字の震え、限られたスペースに凝縮された熱意。それらすべてを編集部が受け止め、誌面という形で応えてくれる。このキャッチボールこそが、僕らの承認欲求を満たす唯一の方法だった。
ハガキに刻まれた、90年代ゲーマーのリアルな日常
投稿される内容は、まさに当時のゲーマーの日常そのものだった。
- 「結局『FFT』は1章のままほったらかし。今メロメロにやり込んでいるのが『サガ フロンティア』です。(中略)キャラがいいですよ。とくにアセルス。過去のシリーズでは一番ですね」
- 「夏です。楽しげな季節ですが私は補習です。来年2月の受験に向かって、頑張らないといけない夏なわけです。でもでも・・・・・・ついつい握ってしまうコントローラ」
攻略WikiもYouTubeもない時代、『サガフロ』の連携技を探したり、『FFT』の難解なストーリーに頭を悩ませたりした記憶が蘇る。そして、勉強とゲームとの間で葛藤する気持ち。これは、あの時代を生きた僕ら全員の共通言語だった。
ネット掲示板の原風景「奴隷の趣味」
ゲーム以外のマニアックな趣味を告白するコーナーもあった。「昆虫の標本集め」「変な形のメモ帳(634冊)」「ゲーム音楽の採譜」。今のネット掲示板の雑談スレのような、カオスで愛おしい空間がそこにはあった。顔も知らない誰かの、どうでもいいけど強烈に気になる趣味の話。これもまた、雑誌コミュニティの醍醐味だった。
フルカラーのイラストページ「4色奴隷」に掲載される美麗なファンアートにため息をつき、編集部からの的確なツッコミにニヤリとする。一枚のハガキが、全国のゲーマーと編集部を繋ぐ太い絆になっていたのだ。
あの頃の熱狂をもう一度、手元に。
画面の向こうの誰かじゃない、雑誌のインクの匂いと共に感じたあの熱量。もう一度、あの頃やり込んだ名作を手に取ってみませんか。コントローラーを握れば、きっと忘れていた何かが蘇るはずです。
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まとめ:僕らは「不便さ」の中で繋がっていた
今、振り返ると、ハガキでの投稿は信じられないほど手間のかかる行為だ。だが、その「手間」こそが、熱量を高め、コミュニティの絆を強くしていたのかもしれない。簡単に発信できる時代だからこそ、一枚のハガキにすべてを込めたあの頃の不便さと熱気が、どうしようもなく愛おしく感じられるのだ。

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