1997年、スマホはまだ無かった。でも僕らの未来は「ピノキオ」の中に全部あったんだ。

1997年、僕らはまだインターネットの海を知らなかった

本棚の奥から引っ張り出してきた、少し黄ばんだ『Tokyo Walker』1997年3月25日号。ページをめくると、ざらついた紙の匂いと一緒に、あの頃の空気が蘇ってくる。

1997年。当時、僕はまだ雪国でゲーム雑誌を読みふけっていた小学生。プレステのポリゴンに未来を感じ、インターネットなんて言葉はSFの世界の出来事だと思っていた。でも、同じ時代、東京のイケてる大学生たちは、僕らが想像もつかないような「未来」を手にしていたらしい。

その名も、Panasonicの「ピノキオ」。この記事を初めて読んだ今、僕は時空を超えた嫉妬と興奮に襲われている。これは、スマホ登場の遥か10年前に存在した、僕らの未来のプロトタイプ(原型)の物語だ。

スマホ登場の10年前に存在した「全部入り」の夢

「電話にメール、パソ通、電子手帳と一台4役」。記事の見出しだけで、胸が熱くなる。今でこそ当たり前の機能だけど、当時は携帯電話、ノートパソコン、電子手帳、モデム…と、全部バラバラに持ち歩くのが“できるヤツ”の証だった時代だ。

そんな「全部持ち」の猛者たちでさえ、「重いからあまり出歩かない」と嘆いていたというから面白い。そこに現れたのが、PHSと情報端末が合体した「パーソナルコミュニケーター」、ピノキオだった。

これ一台あれば、面倒なケーブル接続なしに、コミュニケーションのすべてが完結する。それはまさに、現代のスマートフォンが実現した世界そのもの。ただ、その実現方法があまりにも90年代的で、愛おしくてたまらないんだ。

祐一君の「イケてる」一日と、僕らが知らなかった90年代

記事では「祐一君」という架空の大学生が、ピノキオを駆使してアクティブな毎日を送る様子が描かれている。

  • デートの約束: 彼女からの電話に、その場でスケジュールを確認して即答。「後で地図をメールしとくよ」なんてセリフ、当時の僕が聞いたら気絶していただろう。
  • 退屈な講義: 教授の話そっちのけで、友達と合コンの連絡をメールでやりとり。レポート課題はパソコン通信で情報収集。最高じゃないか。
  • 突然の釣り: 思い立ったら吉日。NIFTY-Serveの釣りフォーラムにアクセスし、最新の釣果情報をゲット。今で言う「ググる」を、ワイヤレスでやっていたのだ。

そして、極めつけがこれだ。

「街でセール中のショップを発見!友達に場所をFAXしてやろう」

…FAX?そう、FAXなのだ。ピノキオでは、手書きで描いた地図やイラストを、そのまま相手のFAXに送信できたという。LINEで位置情報を送るのとはワケが違う。そこには、手書きの温もりと、少し不便だからこそのエモさがあったはずだ。

驚きのスペックと、79,800円という「未来への投資」

この未来の塊、ピノキオのスペックも見てみよう。

  • 魔法のペン操作: 文字入力から編集まで、すべて付属のペン1本で完結する直感的な操作性。
  • ワイヤレス・パソ通: 当時国内最大だった「ニフティ・サーブ」にケーブルなしで接続可能。これが最大の売りだった。
  • 価格: 79,800円(税別)。プレイステーションが2台は買えるであろうこの価格。まさに、未来への投資だ。

連続待受200時間、連続通話8時間というスタミナも驚異的だ。今のスマホが一日持てば御の字なのを考えると、技術の進化とは何なのか、少し考えてしまう。

記事の最後は、祐一君が「もちろん、彼女の方も私一人だけよね?」と別の女の子に詰め寄られるシーンで終わる。「も、もちろん・・・(冷汗)」という彼のセリフが、このガジェットがもたらした光と影を物語っているようで、なんとも人間くさい。

あの頃の熱狂を、もう一度その手に。

祐一君が夢見た未来は、今や我々の日常になった。でも、あの頃のガジェットが放っていた「これさえあれば何でもできる!」という無限の可能性とワクワク感を、もう一度味わってみたくはないだろうか。

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まとめ:ピノキオが見た夢の続きを、僕らは生きている

商業的に大成功したとは言えないかもしれない。でも、ピノキオが描いた「いつでも、どこでも、誰とでも繋がる」という夢は、間違いなく今のスマートフォンに受け継がれている。

手書きの地図をFAXで送る温かさ。フォーラムで出会った仲間との「オフ会」。僕らが効率化の中で少しずつ手放してきたものが、この古びた雑誌の記事には詰まっている。

この記事は、単なる懐かしいガジェットの紹介じゃない。僕らがかつて夢見た未来と、それが実現した現在地を確かめるための、タイムカプセルなんだ。

 

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